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札幌高等裁判所函館支部 昭和38年(ネ)63号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

被控訴指定代理人は、請求の原因として、

被控訴人は、昭和二五年三月三一日控訴人に対し別紙第一記載の各物件を代金は同記載の代金額とし、これを被控訴人が発行する納入告知書による指定期日までに納入支払うこと、期日までにその支払いをしないときは控訴人は被控訴人に対し民法所定の遅延損害金を支払うこととの約定で売渡し、その後控訴人に対し同年四月一五日かぎり右代金を納入支払うよう納入告知書をもつて指定告知したところ、被控訴人は別紙第二記載のとおり内金の支払いを受け、残金は金八八万三六四四円となつている。よつて、被控訴人は控訴人に対し右残金およびこれに対する昭和三五年一〇月一日以降右完済まで右約定に基づく民法所定利率年五分の割合による遅延損害金ならびに別紙第三の計算による昭和二五年四月一六日から昭和三五年九月三〇日までの右約定遅延損害金合計四八万七〇五八円の支払いを求める。

と述べ、控訴人の抗弁(1)ないし(4)に対し

(1)に主張の金一〇万円弁済の事実は否認する。(2)の債務免除をなした事実も否認する。昭和二五年六月一一日訴外渡辺喜夫が金七〇万円の限度で控訴人が本訴請求原因たる売買(以下、本件売買という。)により負担する代金債務につき連帯保証をなした事実はあるが、右主張のように被控訴人が控訴人に対し債務免除をなした事実はない。(3)の主張は争う。本件売買は私法上の売買であるから、その代金債権も公法上の債権ではない。(4)の主張も争う。控訴人が当時商人であつた事実は知らない。と述べた。

(立証省略)

控訴代理人は、請求原因事実はすべてこれを認める。と述べ、抗弁として、(1)控訴人は被控訴人がその弁済を自認する金三四万五九二八円のほか、昭和二六年七月八日金一〇万円を弁済している。(2)本件売買は控訴人が被控訴人から払下げを受けたのではあるが、事実上は訴外渡辺喜夫と共同にて払下げを受けたものであるところ、昭和二五年一〇月、それまでに控訴人が伐採したところの立木(本件売買物件たる立木の約半分)を除き、その余の本件売買物件は右訴外人にて処理し、残代金は右訴外人において被控訴人に支払うこととなつたことから、控訴人は当時青森財務部長江藤誠一および同部管財第二課長対馬儀一立会のもとに右残りの物件を右訴外人に引渡すとともに、控訴人は被控訴人の右各係官から本件売買の残代金につき債務免除を受けたものである。(3)本件売買代金債権は公法上の債権の性質をもつものであるから、会計法第三〇条第三一条により控訴人が最後に代金の内金を支払つた日である昭和三一年五月三日から五年間被控訴人がこれを行使しなかつたことにより時効で消滅している。(4)本件売買当時控訴人は、漁業、海産物商、鉱業、採石販売業を営んでいた商人で、本件売買はその営業のためになした商行為であるから、本件売買代金債権は五年間これを行使しなかつたことにより時効で消滅している。

と述べた。

(立証省略)

理由

一、請求原因事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、控訴人主張の各抗弁について検討する。

(1)  昭和二六年七月八日金一〇万円を内入弁済したとの抗弁について

原審証人対馬儀一の証言により成立の真正が認められる乙第一号証の一、二と原審および当審における控訴本人尋問の結果を総合すると、その日時が昭和二六年七月八日であるか否かはしばらくおき、本件売買代金の内入れとして、本件売買当時被控訴人の仙台財務部青森支部管財第二課長であつた訴外対馬儀一に金額金七万五〇〇〇円の小切手および現金二万五〇〇〇円を交付した事実が窺われる(原審証人対馬儀一の証言中この認定に反する部分は右各証拠に照らし措信できない。)が、右対馬儀一の証言によれば、訴外対馬儀一は本件売買代金を受領する権限がなかつたことが認められるから、右事実のみから有効な弁済があつたとはいえないし、他にも右主張の金一〇万円の弁済を認めるべき証拠はない。

(2)  昭和二五年一〇月本件売買代金の残債務について債務免除を受けたとの抗弁について

成立に争いのない甲第七号証、乙第二号証、乙第四三号証の一、二、乙第四四号証の一ないし三と原審証人対馬儀一の証言を総合すれば、昭和二五年六月一一日当時訴外渡辺喜夫が本件売買代金債務のうち金七〇万円について重量的に債務を引き受けないしは連帯保証をなした事実はこれを認めることができるが、控訴人主張のように控訴人の債務を免除したことはないことが認められ、原審および当審における控訴本人尋問の結果のうち右主張に副う部分は右各証拠に照らし措信できず、他にも右抗弁事実を認めるに足る証拠はない。

(3)  本件売買代金債権は公法上の債権として時効消滅しているとの抗弁について

成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二によれば、本件売買は国の普通財産の売払いであることが認められ、かかる普通財産の売払い行為は私法上の法律行為と解すべきであつて、その代金債権もまた私法上の債権といわねばならないから、右抗弁はその前提において失当である。

(4)  本件売買代金債権は商事債権として時効消滅しているとの抗弁について

当審における控訴本人尋問の結果によれば、控訴人は本件売買当時海産物商を営む商人であつたことが認められる。なお、控訴人は当時右海産物商のほか、漁業、鉱業、採石販売業を営んでいた旨を主張し、右尋問結果によれば、控訴人は当時漁業をも営んでいたことが認められるが、漁業を営むものを商人ということはできないし、また同じく右尋問結果によれば当時はいまだ鉱業採石販売業を営んではいなかつたことが窺われ、この認定に反する原審における控訴本人尋問の結果および当審証人茶碗谷洋の証言は措信できない。

而して、商人の行為はその営業のためにするものと推定せらるべきであるが、成立に争いのない甲第二号証の一、甲第四号証の一によれば、本件売買物件のうち別紙第一(ロ)および(ニ)の各物件は、国家警察函館方面本部署員住宅および函館市営住宅建築のためと称して売渡しを受けたことが認められるのみならず、当審における控訴本人尋問の結果によれば、本件売買行為は当時控訴人が営んでいた海産物商とは全く無関係な行為で、その営業のためにした行為ではなかつたことが認められるから、本件売買は商行為ではなく、その代金債権も商事債権とは認められない。右抗弁もその前提において失当である。

三、控訴人主張の各抗弁がいずれも理由がないこと右の如くである以上、被控訴人主張の請求原因事実に基づきその主張の各金員の支払いを求める本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担について同法第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙第一

売買物件

青森県下北郡大湊町(現在むつ市)所在

(イ) 立木(杉、松、雑木)一九三八石二合一勺        代金額三三万四五一七円

(ロ) 建物(工場建、雑屋建)三棟二六五坪          〃  一九万三三八〇円

(ハ) 建物(住宅建)二六棟延一、一八一坪          〃  四四万九五六〇円

(ニ) 建物(住宅建、倉庫建、雑屋建)一六棟六七三坪九勺   〃  二五万二二一五円

代金額合計金一二二万九五七二円

別紙第二

内金弁済年月日および弁済額

(イ) 昭和二六年三月三一日                   金二三万四九二八円

(ロ) 同   年八月 七日                   金 八万四〇〇〇円

(ハ) 昭和三〇年五月二一日                   金   一〇〇〇円

(ニ) 昭和三一年五月 三日                   金 二万六〇〇〇円

計                              金三四万五九二八円

別紙第三

昭和二五年四月一六日から昭和三五年九月三〇日までの約定遅延損害金計算の内訳

(イ) 昭和二五年四月一六日から昭和二六年三月三一日まで売買代金一二二万九五七二円に対する年五分の割合による遅延損害金

(ロ) 昭和二六年四月一日から同年八月七日まで残代金九九万四六四四円に対する年五分の割合による遅延損害金

(ハ) 昭和二六年八月八日から昭和三〇年五月二一日まで残代金九一万六四四円に対する年五分の割合による遅延損害金

(ニ) 昭和三〇年五月二二日から昭和三一年五月三日まで残代金九〇万九六四四円に対する年五分の割合による遅延損害金

(ホ) 昭和三一年五月四日から昭和三五年九月三〇日まで残代金八八万三六四四円に対する年五分の割合による遅延損害金以上合計金四八万七〇五八円

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